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2011.10.01

07|モケイづくりを始めよう その4~建物の表現

西山 健一((有)イー・エー・ユー|EA協会)

■はじめに

前号では道路や広場の舗装の表現について取り上げた。今号では土木の模型における建物の表現について紹介したい。土木の模型において、建物はいわば脇役の存在である。しかし脇役だからといって、その表現をおろそかにすることはできない。建物の存在は模型全体に立体感とスケール感を与える。そのため、その表現方法については充分に吟味しなければならない。建物の表現を考えるにあたって、重要なポイントが二点ある。一点目は建物の表現にメリハリをつけること。二点目は作製する模型のスケールに応じた表現を選ぶことである。以下この二つの点について詳しく述べたい。

 ■メリハリをつけた建物表現

いわゆる「図」と「地」の関係で考えると、土木の模型において多くの建物は「地」にあたる。一方で、設計対象となる土木施設のデザインを検討する上で、設計対象との関係性をよく考えなければならない重要な建物もある。模型の中で、建物の存在を強調し、設計対象との関係を分かりやすく提示する。こういった建物は「図」の建物として捉える事ができる。「地」の建物と「図」の建物、これら二つの性格の異なる建物は、メリハリをつけて表現することが望ましい。「地」となる建物はあくまでも「地」に徹し、「図」となる建物は、設計対象となる土木施設と共に、浮き上がって見えるように表現することが求められる。

①「地」となる建物

「地」となる建物の表現として、最もポピュラーな方法はスタイロ(8月号ドボクノモケイ05で紹介)を用いる方法である。スタイロカッターでスタイロを多角柱状に切り出し、それを敷地に配置していく(細かい屋根形状等は省略して表現する)。建物の平面形状は地形図等から読み込み、建物の高さについては現地調査又は住宅地図に記載されている建物階数からおおよその高さを割り出す。(階高を3m~3.5m程度×階数として、建物高さを設定するのが一般的である。)多角柱状の建物を切り出した後は、敷地模型の塗装にも用いるジェッソ(8月号ドボクノモケイ05で紹介)で塗装し、建物の陰影がはっきり出るようにする。(写真1)
以上が最も一般的な建物の表現であるが、作製する模型で表現したいイメージによって表現を変える場合もある。ジェッソに色を混ぜて着彩する方法や、スタイロの表面に別の素材(航空ベニヤやバルサ材など)を貼りつける場合などがある。(写真2)

左)写真1 「地」の建物:スタイロを多角柱状に切り出し、ジェッソで塗装した例。
(熱海渚親水公園スタディ模型 S:1/500 EAU作成)
右)写真2 「地」の建物:航空ベニヤを貼りつけた例
(東京駅周辺模型 S:1/500 GSデザインワークショップ2004参加者有志+東京大学景観研究室有志作成)

 

②「図」となる建物

先に述べたように、土木の模型においても、設計対象のデザインを検討する上で、意識すべき重要な建物がある。街路に面した歴史的建造物、地域にとって重要な学校、公園に隣接する図書館といった具合である。こうした強調すべき「図」となる建物に関しては、その表現を「地」の建物と変える必要がある。一つの方法はその建物だけ異なる色を塗るという方法である。「地」の建物をジェッソの白いままで着色し、「図」となる建物のみに着彩する。これが一番簡単な方法である。
一方、「地」の建物を多角柱で作るのに対し、「図」の建物を細かく作り込むという方法もある。例えば、当該建物が勾配屋根の建物であれば、屋根に勾配をつけ、ファサードが特徴的であれば、開口部などのファサードを細かく作り込む。人が集まる建物であれば、その建物の中や周辺だけ意図的に多く人を配置する場合もある。いずれにしても、当該建物が計画の中でどのような意味を持つのかをよく考えた上で、その表現方法を選ぶようにしたい。(写真3)

 

写真3 「図」の建物:正面の駅舎とメインストリート沿いの建物は、「図」となるよう細かくファサードを作り込んでいる
(東京駅周辺模型S:1/500 GSデザインワークショップ2004参加者有志+東大景観研究室有志作成)

 

■スケールに応じた建物表現

もう一つの重要な点は、「スケール」に応じた建物表現である。1/100の模型と1/1000の模型では建物の表現も当然異なる。見る人が模型に感情移入が出来るよう、スケール感を出せるかが鍵になる。

 ①スケールの小さい模型の場合

1/2500や1/1000などスケールが小さい模型では、建物の高さの差を模型に表現しても、その差が分かりづらい場合がある。(建物1層3.5mの差は1/2500の模型の場合、1.4mmにしかならない。)むしろ模型を広域で作るため、作製する建物の数が膨大になり、一棟毎に建物の高さを変えて作ることは非常に時間がかかる。こうした場合、先に述べた多角柱の建物表現よりもさらに表現を簡略化する場合がある。一つは高さによって、建物をいくつかのグループに分け、それぞれ毎に高さを一定にして切り出す方法である。グループ毎に一定の高さで建物を切り出せばよいので、時間が短縮される。
またさらに簡略化して、建物の高さをすべて一定にして切り出してしまう方法もある。この方法では、建物を平面図の延長にある一種の図像として捉える。光を当てた際に影が出て立体感が出る程度高さ(例えば、加工がしやすい1~2mmのスチレンペーパーで建物平面形状を切り出していく)で表現すると、切り出しの作業時間が短く、効率が良い (写真4) 。
一番簡略化する方法は、地形図等に書かれている建物の図面をそのまま模型に貼るという方法である。広域地図の延長とも言えるこの方法では、建物の立体感は表現できないが、ベースとなる地形を顕在化させることができる。この方法を用いる場合は、強調したい主要な建物のみを立体化させて表現すると良い。

 ②スケールの大きい模型の場合

1/100程度のスケールになると、多角柱状の建物表現ではスケール感を表現することは難しい。この位のスケールの場合、作製する範囲も限られてくるので、作るべき建物の数もそれほど多くはない。そのため、「地」となる建物であっても、スケール感が出るように表現したい。具体的には、屋根の形状をきちんと表現する/バルコニー等を作り、建物の階数が分かるように表現する/開口部建物ファサードを表現するといった方法が挙げられる (写真5)。

右)写真4:建物は1mmのスチレンペーパーを切り出して貼り、ジェッソで塗装している
(実際の高さより低いが、建物の外形の陰影のみが出て、地形が顕在化する)
(宮崎県西都市妻北地区地形模型S:1/1000 EAU作成)
左)写真5:「地」の建物である周囲の家も勾配屋根や庇等を表現している。一方「図」の建物である教会(写真中段左側の敷地内の建物)はファサードを細かく作り込んでいる。
(D教会駐車場検討模型S:1/100 EAU作成)

 

■終わりに

冒頭にも述べたように、土木の模型における建物は脇役ではあるが、決しておろそかにできない要素である。模型全体のスケール感を左右し、また模型ならではの立体感を生み出す。筆者の経験では、市民に模型を見せる場合、「あ、あそこは俺の家だ。」「私の家はどこだろう?」という声がよく聞こえてくる。設計対象の施設よりもじっと建物の方を見ているのである。その時に見ている人の心をつかめるか。建物は非常に重要な要素である。
さて、次号では、土木の模型で欠かせない要素「植栽」の表現について紹介する。

 

ドボクノモケイ

西山 健一Kenichi Nishiyama

(有)イー・エー・ユー|EA協会

資格:

技術士(建設部門:都市および地方計画)

 

略歴:

1975年 東京都生まれ

1998年 東京大学工学部土木工学科卒業(景観デザイン)

2000年 東京大学大学院社会基盤工学専攻修士課程修了(景観デザイン)

2000年〜2002年 (株)日本設計勤務

2002年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程入学

2003年 (有)イー・エー・ユー設立

2005年 東京大学大学院社会基盤工学専攻博士課程中退(景観デザイン)

2005年〜2007年 国土交通省東北地方整備局 景観デザイン研修講師

 

主な受賞歴:

2008年 土木学会デザイン賞 奨励賞(片山津温泉砂走公園)

2009年 広島南道路太田川放水路橋りょうデザイン提案競技(国際コンペティ

ション)最優秀賞

 

組織:

(有)イー・エー・ユー

取締役代表 西山 健一

取締役代表 崎谷 浩一郎

〒113-0033 東京都文京区本郷6-16-3幸伸ビル2F

TEL:03-5684-3544

FAX:03-5684-3607

HP:http://www.eau-a.co.jp/

 

業務内容:

・土木一般、建築、造園等に関わる景観デザイン、設計、コンサルタント業務

・都市開発、都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務

・その他上記に付帯する業務

 

 

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