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2012.05.30

11|モケイづくりを始めよう その8 ~構造物について

西山 健一((有)イー・エー・ユー|EA協会)

■はじめに

前号では人物の表現方法について紹介した。今号では構造物の模型について紹介する。土木の構造物と言えば、橋梁、トンネル、擁壁、ダム、堰、護岸など様々な種類がある。その全てについて紹介するのは難しいので、ここでは一番分かりやすい橋梁を例に取って紹介したい。

■橋梁の模型を作る上での大事な点

橋梁の模型を作る上で留意しておきたい点を2つ紹介する。まず一つ目は模型のスケールと表現方法をよく考える事である。これは本連載でも繰り返し述べてきたポイントである。誰に何を伝えようとするかをよく考え、適切なスケールとその表現方法を選ばないといけない。特に橋梁の場合、周辺敷地も含めた広域模型から部材の立体的な納まりを確認する原寸模型まで、作るべき模型のスケールの幅が広い。またプレゼンテーションに用いる模型から設計者自身が確認するスタディ模型まで、模型製作の目的も幅が広い。特に細部のデザインを考える場合は、より3次元的な思考が必要になる。そのためスケッチや図面よりも模型を用いたスタディが必要になるケースが多い。トラスのように部材が1点に集まるような箇所では、模型を作ってみて初めて部材配置の可否が分かる場合もある。

二つ目は力学や構造を考えて作る事である。模型とはいえ、使用する材料によって重さも異なれば、その強さも異なる。力学的に不合理な模型の作り方をすると、模型自体にゆがみやたわみが生じてしまう。特にスケールの大きい模型(写真1)を作ると材料自体の荷重が無視できなくなり、模型自体が物理的に自立しなくなることもある。模型を作り始める学生諸君には、是非力学や構造の事をよく考えながら作ってもらいたい。模型を作る事で、実際の構造物の力のかかり方を理解することができる。また出来上がった模型に力を加えることで構造物がどのように変形するのかを見てみるのも面白い。

 

写真1 製作中の1/50橋梁模型。このスケールになると桁が材料の荷重に耐えきれず、崩壊してしまう。そのためこの模型では桁の中に金属プレートを入れ、ボルトで連結することによって全体を支えている。

( 広島南道路太田川放水路橋梁の検討段階での模型 S:1/50 (株)エイト日本技術開発+EAU+国士舘大学二井研究室+空間工学研究所(以下では太田川放水路橋梁設計チームと呼ぶ)作成)

 

力学や構造を考えながら模型を作る事の重要性を述べたが、模型を実際の構造物の構造系と同じように作ることは必ずしも重要ではない。例えば前掲の写真1のような下路アーチ橋のケーブルを例に取って見てみよう。実際の構造物ではケーブルに引張力が働く。しかしこのケーブルを模型で表現する際に引張力だけを受け持つ糸のような素材を用いると、力のバランスをよほどうまく取らない限り、糸にたわみが生じてしまう。たわみが生じないように糸自体に先に引張力を加えて張ると今度はアーチの方にゆがみが出てきてしまう。逆に多少の圧縮力も受け持つことのできるピアノ線のような材料を用いれば、力のバランスが崩れてピアノ線に圧縮力がかかっても、たわみの無いきれいな模型に仕上げることができる(写真2)。

実際に出来上がる構造物の力学を考える事は重要であるが、模型を作る目的と模型における力学を良く考え、作り方や素材選びを柔軟に考えるようにしたい。

写真2 下路アーチ橋におけるピアノ線と用いたケーブルの表現。

( 広島南道路太田川放水路橋梁の検討段階での模型 S:1/300 太田川放水路橋梁設計チーム作成)

■様々なスケールの橋梁模型

では、橋梁の模型にはどのようなものがあるのか?以下にスケール毎に模型を作る目的やポイントを紹介する。

①地形も含めた広域模型(写真3)

周辺の地形や建物まで含めた広域全体模型である。通常は1/1000〜1/500程度のスケールで作る場合が多い。周囲の風景とのバランス、特に橋梁全体のスケール感を把握するのに用いる。検討段階の初期に作る事が多く、橋梁形式を選定するのに用いることが多い。橋梁単体の模型から作り始めてしまうと、周囲の風景に対して大きすぎる(「スケールアウト」という)構造物になってしまう事があるので注意が必要である。

②橋梁全体模型(写真4)

おおよその構造形式が決まった段階で、スパン割りや上部工(桁、アーチ、タワー、吊部材など)やと下部(橋脚や橋台など)とのバランスなど、橋梁全体としてのプロポーションを確認するのに用いる。橋長にもよるが、1/500〜1/200程度のスケールで作る場合が多い。①で述べた広域全体模型からはスケールアップするので、細部の作り込みも可能になる。

左)写真3 広域模型(M橋スタディ模型 S:1/1000 EAU作成)

右)写真4 橋梁全体模型

(広島南道路太田川放水路橋梁スタディ模型 S:1/300 太田川放水路橋梁設計チーム作成)

③断面模型(写真5)

橋梁のある部分で切断した断面模型である。実際には見る事のできないものである。桁断面の構成などを示すのに用いる模型で、プレゼンテーション用に作る場合が多い。スケールは1/100〜1/20程度のスケールで作る場合が多い。構造を途中で切断する模型であるため、構造的に自立しないものも多い。そういう場合には透明のプラスチック板で作った仮の支え(実際には存在しないので、存在感を出来る限り消す)などを用いると良い。

③各部の模型(写真6)

アーチ部材や橋脚など各パーツの検討を行うための模型である。1/100〜1/10程度のスケールが多い。細かい形状まで作り込まなければならないので、実際の設計を行う上で注意すべき点が見えることも多い。

⑤ディテール検討模型(写真7、8)

トラス部の節点などディテールの検討をする場合に作る。この模型になると1/30〜1/1程度のかなり大きなスケールの模型となる。模型を作ることで、実際に空間的に部材が配置できる事が分かる場合もある。また原寸で模型を作る事もあり、その際には溶接などの工事が実際に可能かどうかを確認することもある。

上左)写真5 断面模型の例(この模型では橋脚との桁の納まりを検討すると共に、桁断面の構成を示している)

(広島南道路太田川放水路橋梁橋脚及び桁部分のスタディ模型 S:1/100 太田川放水路橋梁設計チーム作成)

上右)写真6 各部模型の例

(広島南道路太田川放水路橋梁アーチ基部スタディ模型 S:1/25 太田川放水路橋梁設計チーム作成)

下左)写真7 ディテール検討模型の例1

(広島南道路太田川放水路橋梁アーチトラスの節点部分のスタディ模型 S:1/10

 太田川放水路橋梁設計チーム作成)

下右)写真8 ディテール検討模型の例2

(広島南道路太田川放水路橋梁アーチ部分の原寸検討模型 S:1/1 太田川放水路橋梁工事担当会社作成)

■終わりに

今号では構造物の模型、特に橋梁の模型に絞って紹介をした。冒頭にも述べたが、土木の構造物には他にも様々な構造物がある。これらの構造物の模型に関してもスケールと表現方法、力学をよく考えてチャレンジして頂きたい。

今号で「モケイづくりを始めよう」の章は終わりである。次号以降は「いよいよ完成」という事で、模型を見栄えよく仕上げるコツや模型を収納する箱の作り方、模型写真の撮り方などを紹介していく。

 

ドボクノモケイ

西山 健一Kenichi Nishiyama

(有)イー・エー・ユー|EA協会

資格:

技術士(建設部門:都市および地方計画)

 

略歴:

1975年 東京都生まれ

1998年 東京大学工学部土木工学科卒業(景観デザイン)

2000年 東京大学大学院社会基盤工学専攻修士課程修了(景観デザイン)

2000年〜2002年 (株)日本設計勤務

2002年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程入学

2003年 (有)イー・エー・ユー設立

2005年 東京大学大学院社会基盤工学専攻博士課程中退(景観デザイン)

2005年〜2007年 国土交通省東北地方整備局 景観デザイン研修講師

 

主な受賞歴:

2008年 土木学会デザイン賞 奨励賞(片山津温泉砂走公園)

2009年 広島南道路太田川放水路橋りょうデザイン提案競技(国際コンペティ

ション)最優秀賞

 

組織:

(有)イー・エー・ユー

取締役代表 西山 健一

取締役代表 崎谷 浩一郎

〒113-0033 東京都文京区本郷6-16-3幸伸ビル2F

TEL:03-5684-3544

FAX:03-5684-3607

HP:http://www.eau-a.co.jp/

 

業務内容:

・土木一般、建築、造園等に関わる景観デザイン、設計、コンサルタント業務

・都市開発、都市計画、まちづくりに関わるコンサルタント業務

・その他上記に付帯する業務

 

 

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