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2011.09.01

05|地形が醸成する性格

八馬 智(千葉工業大学工学部デザイン科学科|EA協会)

いきなり私事で恐縮ですが、とてもラッキーなことに僕は現在、オランダでデザインの研究をする機会をいただいております。40歳を過ぎて初めての海外生活はやや遅かったかなと思いつつも、欧州の様々なデザインを直接肌で感じることで、すっかり固く狭くなっていた自分の視野が強制的にほぐされて広げられているような気がしています。また、海外生活に関してよく言われることですが、ことあるごとに日本人としての自分のアイデンティティーについて考えざるを得ません。そこで、オランダの典型的な風景を見ながらオランダ人の特徴を考えることで、日本人の特徴を振り返ってみたいと思います。

ご存じのように、オランダの国土は全域にわたって極めて平坦です。それどころか、国土の4分の1が海面以下と言われています。「世界は神がつくったが、オランダはオランダ人がつくった」という言葉は伊達ではなく、干拓と治水による国土形成の歴史をそこかしこから感じることができます。その人工的な風景は、どこを見てどこから見られるという関係が極めて自由であり、なんとも手がかりや拠り所がないように感じられ、なかなか馴染めずにいました。

 

写真1 鉄道の車窓からの眺め。オランダはあきれるほど平ら。

 

しかし、「地形が人の性格を醸成する」というやや強引な視点に立ってみると、平坦な風景が次第に面白くなってきました。僕が感じるオランダ人の特徴を思いつくままに列挙してみると、寛容、おおざっぱ、合理性を好む、自分のことは自分でやる、ファーストコンタクトが笑顔、高い共同体意識、基本的にまじめ、ちょっとしたユーモアを好む、他人との一定の距離感を保つ、人生を楽しむ、ケチ、などなど。広大で単調な人工の平地において、常に水を管理しながら国の形を保っていくには、そうした性格でないと暮らしていけなかったのではないでしょうか。もちろん個人差の方が大きいでしょうし、プロトタイプ的決め付けは危険だと思いますが、どうやら一般的な傾向は存在するようです。

オランダ人がつくる現代の建造物からもそれらの特徴が透けて見えます。新しい街には、大きく斜めにカットされた面、キャンチレバーによる不自然な出っ張り、ヒューマンスケールから外れた巨大な塊感といった、一見ぎょっとする大胆な外観の建築物や土木構造物が数多くあります。その場所の諸制約条件による必然性が感じられず、当初は本気でやる渾身のギャグといった印象を受けました。そうした様々なダッチデザインを見ていくうちに、裏にある合理性のようなものが見え隠れしてきました。それは、卓越した水平性への抵抗として、土地の文脈からあえて切り離したランドマーク性を求めるとともに、設計条件を自ら設定するようにデザインコンセプトを強固につくりあげ、それに素直に従うというアプローチを取っているように見受けられるのです。そして、ちょっとしたジョークをスパイスとして加えます。かしこまらずにどこかポップにするというのがオランダ流なのでしょう。

 

写真2 アムステルダムの港湾再開発地区。ダッチデザインはコンセプトが直接的に表に現れる。

 

一方、オランダと比べながら日本の国土を思い出してみると、非常に繊細な起伏を持った地形であることに気付きます。国土の7割は森林という極めて山がちな地形ですし、一見平坦に見える平野部も小河川に削られた微地形の変化がとても豊かです。ちなみに2008年の統計によると、オランダの人口密度が440人/1km²に対して日本の人口密度は342人/1km²と下回っていますが、実際は国土の約1割の平地に全人口の半分が集中するという過密ぶり。国土の大部分が利用可能なオランダの方が、実感として圧倒的に余裕があります。そして、日本はただでさえ多い自然災害に対するリスクがとても大きいと言えます。

このような地形は、やはり日本人の性格に大きな影響を及ぼしていると感じます。つまり、勤勉、緻密、相互扶助の精神、協調性を重んじる、規律を守る、自己主張の抑制が美徳、粘り強い、人の顔色を伺う、などなど。不幸にも3月に起きてしまった大災害への対応からも、これらの特徴をより顕著に読み取ることができます。当然のことながら、国民性の違いは善し悪しで語ることではありません。個人的には日本人としての自信を持って、繊細な協調性を発揮していけるといいなと思っています。そして、今後も日本の繊細な風景に適合するデザインのありようを考えていきたいと思っています。

風景エッセイ

八馬 智Satoshi Hachima

千葉工業大学工学部デザイン科学科|EA協会

資格:

博士(工学)

 

略歴:

1969年 千葉県生まれ

1993年 千葉大学工学部工業意匠学科卒業

1995年 千葉大学大学院工学研究科工業意匠学専攻 修士課程修了

1995年 株式会社ドーコン(旧・北海道開発コンサルタント) 勤務

2004年 千葉大学大学院工学研究科デザイン科学専攻 助教

2008年 千葉大学大学院自然科学研究科人間環境デザイン科学専攻 博士課程修了

2010年 アイントホーフェン工科大学(オランダ) 客員研究員

2012年 千葉工業大学工学部デザイン科学科 准教授

 

主な受賞歴:

2003年 土木学会デザイン賞 優秀賞(小樽市 堺町本通)

2012年 土木学会デザイン賞 奨励賞(札幌みんなのサイクル ポロクル)

 

主な著書:

「ヨーロッパのドボクを見に行こう」(自由国民社、2015)

 

組織:

学校法人 千葉工業大学 工学部 デザイン科学科

〒275-0016 千葉県習志野市津田沼2-17-1

TEL/FAX:047-478-0553

HP:http://www.it-chiba.ac.jp/faculty/eng/design/

 

業務内容:

・景観デザインに関する研究、地域づくりに関する研究、産業観光(インフラツーリズム)に関する研究 など

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風景エッセイ

2012.07.02

08|欧州の保存活用に見る時間へのまなざし
風景エッセイ

2011.09.01

05|地形が醸成する性格
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