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2013.06.17

12|窓山に戻った風景

菅原 香織(秋田公立美術大学 美術教育センター|EA協会)

窓山は秋田県旧二ツ井町の最北端に位置し、旧種梅小学校区の最も奥にある集落で、種梅川を遡り、梅内、田の沢、泥の木、黒瀬、大畑を過ぎ小滝から1キロほど急峻な砂利道を上り詰めたところにある。地名の由来は、藤里町から大野岱の牧場を通って窓山に向かう山道から行くと、山の中に突然目の前にぽっかりと窓が開いたように広がっているところから「窓山」という名前が付けられたといわれている。

 

図1 峠から見下ろした窓山の風景

 

窓山は日本が誇る世界自然遺産「白神山地」への玄関ともいえる場所にある。ブナ、ミズナラなどの森と、溜池、小川、田んぼの景観、家屋敷と防風林などの美しい景観を有する。また、もう少し奥に行くと鬼伝説のある「窓山洞穴」がある。

 

かつては5戸の小さな集落だったが、2005年までは一軒の農家に80歳を過ぎた老夫婦(野呂長介さんミナさん)が暮らしていた。山から湧き水を引き、田んぼと畑の作物、森の山菜やキノコ、川から捕れる魚など、自然の恵みの豊かさのおかげで食べ物には困ることなく、炭焼きやマタギをしながら生計を営んできたという。農林業は、野呂さんが田畑、以前住んでいた人が一部で米を作っているが、平地のほとんどは休耕田である。ところが、2006年の秋、病気のためミナさんは入院、長介さんは介護施設に入所し、住民はついにゼロとなり、限界集落から「消滅集落」となった。

 

そこで窓山の再生を願う会(全国の有志、代表加藤長光)は、日本全国スギダラケ倶楽部等の協力を得て、窓山を持続可能な集落としてよみがえらせたいという思いで、2006年から二ツ井の住民と共に、窓山の視察・調査・ヒアリング・森林保護を行ってきた。

 

窓山は、うっそうとした山の中に開かれた平地で、周囲を森で囲まれ隠れ里のような独特な景観と、吹き渡る風、雲や星を間近に感じる開放的な場所である。北北西の方角に白神山麓をのぞみ、周囲の雑木林からは山菜やキノコが採れ、炭焼きに適した広葉樹が豊富にある。また、北側の山から湧き出る水から自然のジュンサイ沼があり、清水にしか生息しない動植物が観察できる。田んぼの土は水田に適し、大変美味しい米も収穫できる。

 

2007年5月には日本全国スギダラケ倶楽部代表でデザイナーの南雲勝志さん、里地ネットワーク事務局長の竹田純一さん、企業・団体では(株)内田洋行、日本全国スギダラケ倶楽部、緑の列島ネットワークなどの協力を得て、窓山の再生の具体的な方法を全国から募り「白神山麓窓山デザインコンテスト」を行った。

 

図2 コンテスト授賞式後、田植えをした田んぼで記念撮影。

 

2008年秋には、GSデザイン会議からご支援いただき、世代や領域を超えて、地域の人々・学生・専門家・都市部の人たちとの交流を通じて窓山を再生しようと「窓山再生WS&デザイン会議」を開催した。窓山を「白神山麓の里山の文化を次世代に伝える場所」「自然とアートとまつりで人が集まる場所」として窓山デザインコンテストで特別賞を受賞した「おこぜまつり」のワークショップとデザイン会議を実施した。

 

図3 白神山地を背景に篠原修先生による基調講演

 

窓山デザイン会議は、限界集落を超えて消滅寸前の窓山のような地方の農山村で生き残っていくためのデザインを考えるというテーマであったが、「結論」らしきものは出なかった。それでも「情感の共有」は十分にあったと思う。参加した全員が窓山の美しい風景を、食を楽しみ、交歓しあった。その土地が持つ力や魅力を発見し、讃え,それを多くの人と共有しあうということは、風景づくりには欠かせないことなのだろう。

 

その後、窓山の最後の住人だった野呂長介さんの息子さんで、生家を守り農業を続けたいと考えていた野呂忠一さんは、この窓山デザイン会議に参加したことがきっかけとなって、家族で窓山に戻ることを決心した。2009年からは豚や鶏を飼い,田んぼの枚数も少しずつ増やしていって、生まれ育った窓山の風景を取り戻しつつある。

 

とはいえ、もっと住人が増えなければ、窓山集落が風前の灯であることには変わりはない。そんな集落が秋田県内はもとより全国各地にあるのだということを忘れてはならないと思う。

風景エッセイ

菅原 香織Kaori Sugawara

秋田公立美術大学 美術教育センター|EA協会

略歴:

1962年 栃木生まれ

1985年 多摩美術大学 美術学部 デザイン科 立体デザイン専攻 卒業

1989年 秋田市立美術工芸専門学校 専門課程 インテリア科 講師

1995年 秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 助手

2007年 秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 助教

2013年 秋田公立美術大学 景観デザイン専攻 助教

2017年 秋田公立美術大学 美術学部美術学科 准教授

2022年 秋田公立美術大学 美術教育センター 准教授

 

主な受賞歴:

2002年 グッドデザイン賞 (高齢者向け川連漆器 たなごころシリーズ)

 

主な著書:

プロダクトデザインの思想Vol.1(共著)PDの思想委員会編/ラトルズ社発行

 

組織:

秋田公立美術大学

〒010-1632 秋田県秋田市新屋大川町12−3

TEL:018-888-8120

FAX:018-888-8109

HP:http://www.akibi.ac.jp/aua/professor-data/29.html

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