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2012.06.12

05-3|別府港海岸の整備と里浜づくり その3

町山 芳信((株)地域開発研究所|EA協会)

今回は、新形式護岸を採用し現在整備中の北浜地区2について、新形式護岸選択の経緯や背後緑地デザイン等について、水理模型実験を実施する計画段階までの検討を紹介する。

2.北浜地区2における検討プロセス

(1)検討段階と体制

北浜地区2は、餅ヶ浜地区検討後の平成16年度から、平成14年度までの構想段階で検討された内容をもとに検討が始まり、平成18年度までに基本的な護岸構造案がとりまとめられた。

その成果を元に平成19年度および20年度に水理模型実験が実施され、平成21年度に、大分県の管轄である緑地部分を含めた護岸の平面検討が行われ、整備計画案がとりまとめられた。平成22年度は、護岸の工事に着工する一方で、護岸の上部工についての詳細検討が平行して行われ、ワークショップも開催されている。以下、平成16年度から21年度にかけての設計段階を中心に、北浜地区2における合意形成プロセスについて整理する。

 

設計段階での検討体制は、当初、専門家および関係地元団体、関係行政機関の担当者からなる検討委員会、地域住民を対象としたワークショップを基本に、その間をつなぐため、委員会の下部組織として、一部の検討会委員と住民代表からなり実質的な討議を行う幹事会を組織して、地域住民との合意形成を図るという体制がとられた。

その後、平成18年度からは、議論の明確化のための検討体制の単純化が図られ、それまでの委員会と幹事会を一体化した検討会ワークショップの2つの検討の場を基本とした検討体制に移行している。

 

設計段階では、最終的に北浜地区2の直轄事業による海岸施設と大分県による環境整備事業(港湾緑地)の計画概要が取りまとめられたが、その過程では、ワークショップにおける住民の計画への理解を高め、適切な合意形成が図られるよう、ワークショップに検討会から専門家が出席し、計画案の説明や住民および行政の意見交換に参加した。

平成22年度以降は護岸施設整備に着手し、整備段階へ移行した。ただし、工事と平行して、護岸の上部工および大分県の管轄範囲である護岸背後の緑地部分についても合わせて検討を行っている。

 

(2)構想段階

構想段階で取りまとめられた整備イメージは、大正以前は当該地区には天然の砂浜が広がっていたことや、現在、別府湾全体が埋め立てにより水に触れられる箇所が少ないことなどを踏まえ、面的防護方式による砂浜もしくは磯浜を人工的に整備するというものであった。

しかし、公になった整備イメージ対して、任意団体である景観デザイン研究会から対案が提案された。「対象地域は、過去の埋め立てにより沖にせり出し、地先の海が深い。こうした地形条件を無視して大規模な海岸改造を伴う砂浜や磯浜を整備することが妥当なのか。」という疑問のもと、対案では、護岸の基本構造に護岸天端を従来の構造よりも低く抑えられる可能性のある新形式の「大型波返し護岸」を用いた、極力海域環境を改変しない案が提案された。

この案では既存護岸を撤去し、大型波返し護岸を現況護岸よりも沖に整備し、緩やかな勾配の緑地で繋ぐことで、背後地と海辺の一体感を創出することも提案され、沖出し距離を、背後のホテル等から人の動きが視認できる25m程度としていた。

この提案を受け、構想段階ではA~C案にC´案を加えた4案を併記するものとした。

A案:ペデストリアンデッキは活かしたまま、護岸前面に緑地及び人工の磯浜を整備する計画。大量の巨石や擬岩を投入するもの。海域の改変規模は、沖合90mに及ぶ。

 

B案:ペデストリアンデッキは生かしたまま、護岸前面に砂浜を整備する計画。水深が深いため、沖合に養浜砂の流出を防ぐための大規模な潜堤が必要となる。海域の改変規模は、沖合130mに及ぶ。

 

C案:ペデストリアンデッキを撤去し、大型波返し堤を整備し護岸の基礎を利用する案。海域の改変規模は、沖合40m程度。

 

C’案:ペデストリアンデッキを撤去し、大型波返し堤と陸の間に緑地を整備する案。海域の改変規模は、沖合40m程度。

 

(3)計画段階

本事業では、水理模型実験により防護機能を検証することが前提であったことから、平成16年度~平成18年度までの検討段階を計画段階として紹介する。

平成16年度には、前年度までの餅ヶ浜地区における波浪等の検討成果を踏まえ、前記構想段階の概略検討構造に対して、各案について比較案が示された。

 

1)既設構造嵩上げ案(構想にはないが既存施設との比較として作成)

直立壁とした場合

 

消波被覆ブロック被覆構造により嵩上げした場合

 

2)A案:人工磯浜案

平成14年度案は、沖側に離岸堤(潜堤)を設けることにより、沖出し距離を押える案。

平成16年度比較検討案は、離岸堤(潜堤)を設けない場合、人工磯だけで波浪エネルギーを減衰させるにはどこまで磯の規模を大きくすれば良いかを検討したケーススタディーである。

 

 

3)B案:人工ビーチ案

平成14年度案は、机上の検討として前浜勾配を1/10とした計画案。

平成16年度比較検討案は、餅ヶ浜の技術検討結果から、前浜勾配を1/15にした断面計画案。 海浜勾配を緩やかにできることにより、波の打上げ高が抑止され、潜堤規模も小規模にできる。

 

 

4)C案:大型波返し(スリット式)+人工磯案

平成14年度案は、捨石マウンド上を人工磯としても利用可能な空間として位置付けた案。

平成16年度比較検討案についても、利用可能な時間帯が多く確保できるように捨石マウンドの天端を満潮位程度に設定した場合の提案である。標記された捨石マウンド天端高(+2.10)は、簡易実験結果を参考にした値であり、今後精査が必要な値である。スリット式護岸の天端高は、直立護岸に対する所要天端高比β=0.6として算出している。

 

 

5)C′案:大型波返し(スリット式)案

平成14年度提案もとにした断面は、捨石マウンド上の利用を考慮しない案。

平成16年度比較検討案も、同様に利用は考慮せず、波浪減衰効果を狙った人工リーフにより現況高+6.00m程度に護岸天端高を押える試案である。標記された人工リーフ天端高(+0.80m)は、簡易実験結果を参考にした値であり、今後精査が必要な値である。水産協調・環境共生の面から今後この高さをどこまで下げられるか検討課題として把握している。スリット式護岸の天端高は、直立護岸に対する所要天端高比β=0.6として算出している。

 

 

(計画検討のポイント)

出典:2008年土木学会第4回景観・デザイン研究発表会ポスター発表部門資料より

■大規模な海岸改造の是非を問う対案の提示

構想段階において整備案に対して、景観デザイン研究会の海岸部会において対案を検討、提示している。動機は、「対象地域は、過去の埋め立てにより沖にせり出し、地先の海が深い。こうした地形条件を無視して大規模な海岸改造を伴う砂浜や磯浜を整備することが妥当なのか?」ということ。しかも人工海浜、ヨットハーバーが当該地区に隣接している。

現状及び当初整備案では、背後地の地盤高から約2.5mの高低差を持つ護岸が海と背後地をさえぎる。この状況を解消し、背後地と海を関連づけ、身近に感じられるような海岸整備を目指した。

そこで、護岸の基本構造として、護岸天端を従来の構造よりも低く抑えられる可能性のある「大型波返し式構造」を提案している(スリット式構造と比較検討)。護岸の前出し幅については、背後地と海辺の一体感を創出する狙いのもと、背後のホテル等から人の動きが視認できる25m程度を景観の観点から提案した。

さらに、海岸改造を最小限に抑えるため護岸前面の基礎部分を常時水没させる案、水に触れる利用の場としての機能を担保させるため水面上に露出させる案の2案を提示。

 

■高い護岸の整備を望む背後住民、海に近づける整備を望む周辺住民

護岸背後の住民はすでに何度も高潮被害を経験しており、防護を優先することを要望。感情の上でも安心感の得られる、現状よりも高い護岸を望んでいた。一方、周辺の住民は、海に近づける、水に降りられる、または海側を利用する整備を要望。つまり、低い護岸を望んでいた。

こうした状況にあって、4案のうち、防護ラインを前に出す2つの対案は、防護ラインを前に出すことで実質的に防護効果が増すこと、海と背後を断絶する壁がなくなり護岸背後に空間(緑地)が整備されることで、眺望を楽しむなどの様々な利用が期待できることから、根強く海浜や磯を望む声もあったが、多くの住民に支持され、今後この方向性で検討を進めていくことを決定した。

 

■護岸基礎部において水に触れる利用を望む住民、藻場となることが期待できる水没した護岸基礎を望む漁業者

下記の意見を踏まえ、藻場の出現が期待できる基礎天端高-1mを防護・管理・景観の観点から検討。親水利用の要望については、別府港海岸全体を見渡し周辺の海岸で確保することや対象地区の他の個所(護岸端部)で検討することとした。

水産:アワビやウニといった高齢者でも比較的容易に獲れ、漁のための設備投資も少ない磯根の資源が重要。これらを増やすためには海藻の基盤となる浅海域が必要。

利用:水に触れる利用への住民の要望は根強く、護岸基礎の天端を干潮時に露出する高さとする案が支持される。

景観:基礎に置く石は単体で小さいと波で飛ばされてしまう一方、巨石の入手は困難。連結石や被覆ブロック、石張りのコンクリートが現実的。水面から露出させると不自然。

管理:基礎天端が常に水面下にあると、ゴミがたまることがなく維持管理の面から有利(隣接するSPAビーチでは、漂着ごみの処理が問題になっていた)。

 

■背後のホテル群と一体感のある緑地幅と勾配の検討

(緑地幅)

施工上の条件と背後地からの視認性に関する景観的解釈に見合う距離の設定施工中も波浪から背後地を守る必要があるが、防護ラインを前に出す方法は、既存の護岸を保存しながらの施工が可能であるため、この点からも支持された。

護岸の前出し幅(緑地幅)は、この施工上の条件から30mと設定。背後(ホテル)から人の活動が認識できる距離として景観の観点から提案した距離ともおおむね一致。

(勾配)

人の活動と勾配との関係の分析と利用をイメージした組み合わせ勾配の提案高低差約2.5mの背後地盤と護岸天端を緩やかな傾斜でつなぐ。勾配は登るのに抵抗がない1/7 勾配を限界とする。緑地幅が広くなったことで計画では1/14の勾配面が得られた。天端付近では、腰をおろして海を眺める行為をイメージし、50cmほどのマウンドを設け海側に下り傾斜をつけた。

 

■整備イメージの提案

北浜地区2全体模型

 

斜面緑地部部分断面模型

北側端部模型

南側端部模型

 

■水理模型実験への構造提案

これまでの成果を踏まえ、平面水理模型実験を実施するための海岸保全施設計画案として、下記に示す平面配置計画及び次頁以降の断面構造を設定した。

 

1)平面配置計画

施設配置の概要は、北側端部は直立消波ブロック式護岸(+7.90)、一般部に大型波返し式護岸(+6.70)を配置する従来からの考え方を基本的に踏襲しているが、南側端部についてはマリーナ防波堤の消波ブロックの収まりを考慮し、直立消波ブロック式護岸(+6.70)を最小規模で設置するものとした。

 

 

 

2)断面計画

 

 

3)正面図

 

エンジニア・アーキテクトのしごと

町山 芳信Yoshunobu Machiyama

(株)地域開発研究所|EA協会

資格:

技術士(建設部門)

 

略歴:

1960年 千葉県生まれ

1982年 東京農業大学農学部造園学科卒業

1982年 (株)ラル計画事務所勤務

1984年 自営

1987年 (株)シビルテック勤務

1990年 (株)地域開発研究所勤務

 

主な受賞歴:

2001年 土木学会景観・デザイン賞 優秀賞(鹿児島本港の歴史的防波堤)

 

主な著書:

歴史的土木構造物の保全、鹿島出版会、2010.9.20、(共著)

 

組織:

(株)地域開発研究所

代表取締役 山下 正貴

〒110-0015 東京都台東区東上野2-7-6 東上野T.Iビル

TEL:03-3831-2916

FAX:03-3831-6259

HP:http://www.rdco.co.jp/

 

業務内容:

・開発史、港湾、海岸、河川、景観、地域計画・観光計画、経済、環境、広報・PI、国際協力、地域開発全般の調査・計画・設計業務

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