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2016.08.25

14|白川・緑の区間

星野 裕司(熊本大学大学院自然科学研究科/工学部社会環境工学科|EA協会)

概要:

阿蘇を水源とし有明海に注ぐ白川の熊本市中心市街地を流れる区間における河川改修事業。緑量豊かな河川景観は,「森の都くまもと」を代表するものとして市民に愛されて来たが,一方で洪水の危険性が高く,ここで水があふれると熊本の中心部が水浸しになるような状況だった。20年以上をかけて多くの市民と合意形成を行い,15mほど川幅を拡げ,薄く低い堤防を築くことによって,洪水の危険性を大きく減少させる整備を行った。また同時に,多くの樹木を残したり移植したりすることによる緑の保全や丁寧な石積みによる歴史的景観の継承,親水性豊かな水辺の創出など,貴重な自然を街中で堪能できる河川公園に生まれ変わった。

 

 

白川・緑の区間のBefore/After(大甲橋より上流を眺める)。

左岸側(写真右側)を15mほど拡幅(掘削)し,流量を整備前の1,500㎥/sから2,000㎥/sに拡大させた。このプロジェクトでは,「森の都くまもと」の象徴として,豊かな緑がまっすぐに立田山に伸びる景観の保全が最も重要であった。

 

 

 

多くの公共事業の実現には,長い時間がかかる。その長いリレーのアンカーであること,また整備後に始まる利活用という新しいリレーのスターターであること。景観デザイナーは,その両者を兼ねることが最も重要なのではないか,ということが,プロジェクトに参加した最も大きな実感である。

 

 

 

平面図と各場所のBefore(外側)/After(内側)。

景観のデザインを行うにあたって,最も嬉しい(もしくは,悲しい?)のは,よくできればできるほど,デザインに気づかれなくなること。このように並べれば,その差は歴然だが,普段,その工夫に気づかれることはほとんどない。

 

 

 

市街地側(右岸)のパラペットと管理用通路。700mm幅のコンクリートに対して,400mm幅の鍋田石(玉名市産)の笠石で分節しスレンダーに見せるとともに,通路側は杉小幅板仕上げとし,エージングにも配慮した。洪水を防ぐ壁であると同時に,日常ではベンチなどの家具のように機能することも目指した。

 

 

 

市道に接する区間では,それぞれ幅1.5mの管理用通路と市道の歩道を合築し,広々とした歩道を実現した。また,歩車道を分ける緑地には,築堤によって伐採されたサクラを補植した。快適な公共空間を創造するためには,仕上げや形状以上に,このような取り組みが重要である(行政の最も苦手なところであるが)。

 

 

 

良いプロジェクトでは,“良いチームになってるなあ”と感じることが必ずあるが,この写真もその一例。

パラペットがクネっと曲がっているが,設計時には用地の都合から切らざるを得ないとしていたエノキの大木を残すために,出張所所長が施工直前に判断し,アクロバティックな処理で施工したものである。

 

 

 

住宅地側(左岸)の緑地の様子。

これらの樹木はすべて移植したものである(約130本)。根回しを移植の2年ほど前に行ったため,自然な樹形のまま移植できた。移植計画は,熊本県造園協会による。遊歩道の線形も,自然な木立に馴染むよう,図面,模型,実地と丁寧に検討を行った。

 

 

 

樹齢100年,重量100tを超える2本のクスノキに関しては,江戸時代から伝わる立曳き工法によって移植を行った。九州では初の試みである。伝統技術の継承という点でも重要だが,人力であるために,近隣の小学生が参加することができ,公共事業を市民に開くという点でも大きな効果を出した。

 

 

 

ミズベリング時の大クスノキの風景。

緑の区間を象徴する大クスノキの足元は,このように人が集える広場として,大クスノキを引き立てるようにあっさりと設えている。

 

 

 

ミズベリングの風景。

左岸では,街区との関係で堤内地に小規模の三角形の残地が多く発生した。これらの残地を上手く空間に取り込むことも大きなテーマであった。この広場は,残地を使って堤防法線を大きく街に張り出し,たっぷりとした平場を緑地内に設けたものである。

 

 

 

左岸の護岸は,すべて新規の石積み(練積み)である。施工にあたっては,故福留脩文氏(西日本科学技術研究所)の指導も仰ぎ,工区ごと(3工区に分かれる)の反省を活かしつつ,少しずつ上達させていった。また,新規法線が直線的になってしまうので,階段の設置や水際を含めた断面の変化によって,単調さを回避している。

 

 

 

水際では,捨石によって環境的多様性を高めるだけではなく,1.5m角のコンクリート平板をランダム(平面的にも高さ的にも)に配置することによって,水へのアクセスのしやすさを確保した。また,このような誘目性の高い仕掛けによって,日々の水位変化など,見逃しがちな自然の変化も顕在化する。

 

 

所在地:

熊本県熊本市

 

竣工年:

暫定供用:2015年4月,竣工:2019年3月予定

 

諸元:

延長:約600m,流下能力:約2000m3/s,移植樹:130本以上

 

受賞:

グッドデザイン賞(2015年)

 

事業費:

約20億円

 

関係者:

事業主体|国土交通省九州地方整備局熊本河川国道事務所

設計|(株)オリエンタルコンサルタンツ,(株)西日本科学技術,(株)建設技術研究所

設計協力|熊本大学景観デザイン研究室,熊本県造園協会

 

 

EAプロジェクト100

星野 裕司Yuji Hoshino

熊本大学大学院自然科学研究科/工学部社会環境工学科|EA協会

資格:

博士(工学)、1級建築士

 

略歴:

1971年 東京生まれ

1994年 東京大学工学部土木工学科卒業

1996年 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 修士課程修了

1996年 (株)アプル総合計画事務所 勤務

1999年 熊本大学工学部 助手

2005年 博士(工学)取得(東京大学)

2006年 熊本大学大学院自然科学研究科 准教授

 

主な受賞歴:

2012年 グッドデザイン賞サステナブルデザイン賞 受賞

2011年 第25回公共の色彩賞 入選 (熊本駅周辺地域都市空間デザイン)

2009年 深谷通信所跡地利用アイデアコンペ 専門部門 優秀賞

2009年 平和大橋歩道橋デザイン提案競技 入選

2003年度 土木学会論文奨励賞 受賞

 

主な著書:

「風景のとらえ方・つくり方」(共著、共立出版、2008)

「川の百科事典」(共著、丸善、2008)

 

組織:

熊本大学

〒860-0555 熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1

TEL:096-342-3602

FAX:096-342-3507

HP:http://www.civil.kumamoto-u.ac.jp/keikan/

 

業務内容:

・景観デザイン・まちづくりに関する研究および事業支援

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